河川空間デザインの課題と展望
にほんのかわ80、47-59、1998
北村眞一
1.はじめに
戦後の経済優先政策のもと治水安全性を中心に据えた河川整備は、平成9年の河川法の改正により「河川環境の整備と保全」を河川事業に位置づけたことで、およそ戦後五十年を経て大きな転換期を迎えた。
すでに河川の環境整備は、昭和30年代からの水質保全対策、昭和40年代からの河川公園や運動広場の造成や環境護岸の整備、昭和50年代からの本格化する河川景観整備、昭和60年頃から急速に展開する河川生態系保全対策といった実績が積み重ねられてきた。しかしこれらはいずれも治水・利水の余裕の範囲を越えていなかった。この経験の蓄積から現在の技術はどこまでを可能にし、どこに課題を抱えているのかを河川景観論と河川生態論から論じてみたい。
2.河川景観デザインの制約上の課題
まず景観デザインの基本を考えてみる。その発想の発端は脱工業化社会における(1)マニュアル、標準断面すなわち全国画一化からの脱却であり、(2)地域の個性や川の個性および人間の直接利用する河川すなわち人間性の復権である。
このためにまず開発されたのが、割ブロック、緑化ブロック、擬石ブロック、埋め石ブロック、ステップブロック、化粧型枠やコンクリート塗装、石張り、インターロッキング、ボードウオーク、カラー舗装、タイル、擬木、デザイン高欄などののり面処理、舗装、フェンスなど、材料部門からの新製品である。これらは昭和30年代から多用されるようになったプレキャスト・コンクリート製品の味気ない無表情さをいかに解消するかをねらったものである。これらに加えて郷土の素材や形態を取り入れる、地場産業産品を複合化するなどで地域の個性を取り戻そうとし、水辺へ近づくために階段護岸や水辺テラスが造られていく。護岸材料も自然石積み、植栽等が工夫され、空間的にも単純な箱形のデザインから多様な空間の複合へと標準断面を脱却していこうとするのである。
景観デザインの進展のための第一の課題は、環境はあくまで配慮事項であり河川工作物の本質的な機能はあくまで治水であるという制約である。治水目的性を強く反映するデザインは、階段はまず護岸であり、堤防植栽はのり面保護工であり、テラスは護岸根固めの変形であり、堤防の高木植栽のための盛り土は水防資材である。歩道においてもベンチを置くことができない時代があり、フラワーポットの変形で代用するというデザインが考案されたのである。これらは複合機能のデザイン課題として見れば成功している面もあるが、法律や基準がいかにデザインを縛っているかが明らかになった事例でもある。このたびの河川法改正で、治水上の必要性は問われなくなり、別に環境面での必然性を問われることになれば、そのほうが望ましいことである。たとえば利用上の機能を考える上では、年に一度の花火大会のための長大な階段護岸が必要か、水辺へ降りる階段がここにどうして必要かといった議論がなされるべきなのである。
第二の課題は公共性とコストの絡む問題である。戦後以来適用されてきた最低価格で最大の効果をという価値基準をいかに改革するかである。材料や形態はまず最も安い価格で設計が行われていたが、これをいかに必要・適切な価格へ転換できるかを考えねばならない。材料やデザインなどに工夫すれば、製品価格、設計費ともにあがるはずである。これは時代が求めるアメニティの思想、住民からの要望、住民意識評価を取り入れたデザイン案の選択方法などを試みている間に、内需拡大の政策、バブル経済などが次々に公共投資の価格を引き上げていく追い風を吹かせたのである。しかし無闇に経済の都合でのデザイン価格が変動する風潮は問題であり、現にバブルの崩壊と共に公共事業が縮小になり、景観設計は贅沢だとばかりに削減される危険性がある。これは関東大震災時の復興と阪神淡路大震災時の復興とを比較して、戦災を経験して以来、「いかに今日の日本人は経済が豊かでも精神が貧しいか」と指摘されている事に通ずるものである。景観に配慮すると高いのがあたりまえだと言う風潮や、何でもお金をかければ良いものができると考える人もいるが、普通のものをデザインすればなにも特別にコスト高になることはない。景観デザインの原点は、利用者の快適性を考える住民福祉にあり、社会の財産を造るといった価値観の変革を基本に据えた、普遍的な理論展開の啓発をあらためて強調しておく必要があるのではないだろうか。
第三の課題は、既に計画段階で河川の縦横断面や平面形状は概略設計が既に昭和30〜40年代頃に治水・利水機能のみで定められていることである。治水上最少限の標準空間で河川敷地が決められ、法線位置、河床高、堤防高、護岸勾配など概略設計がなされている所でできることは、護岸の変形や護岸の表面処理程度のことでしかないわけである。いかなる川でも工夫はできるとは言うものの、高水敷の計画されている河川ではそこに空間の余地があるが、単断面の計画では工夫の余地は非常に少ないのが実態である。この制約は容易には越え難く、既存計画の計画規模、河道計画、縦横断面計画など基本的な計画要素を見直すことになる。計画を見直さないのであれば、自ずと景観デザインは限界があることを認めればよい。しかし基本的な計画や基準を見直さなければ、後述する生態系の回復も同様に、本質的な環境整備の改革は望めない。
3.河川景観デザインの方法論上の課題
特別に景観設計が可能であった事例も例外的に存在する。それらは計画の初期的段階から取り組むことができたケースや、河川空間に洪水処理上必要な横断面以上に余裕がある場合、沿川に利用可能な用地が買収できたり一体的に利用できる公共施設などがある場合などである。つまり河川空間に余裕があって、あるいは余裕空間を作り出すことによって多様なデザインを可能とすることができた場所である。代表例を挙げると、広島市太田川が古典的で、横手市横手川、神戸市生田川、横浜市和泉川、五十崎町小田川など150を越える全国の「ふるさとの川モデル事業」地などに見られる。
ここでは空間に余裕のある河川における景観デザインのモデル事例のデザインの特徴を見ることにする。
第一に空間制約が緩くなり、多様な空間を設けていることである。一時の隅田川のように直立しないまでも、一割や五分の勾配の護岸しか造れないのでは何もできないのと同様である。空間に余裕ができるということは、河川の空間を壁、広場、階段、自然のままなどと区分すること(ゾーニング)ができることになる。直立壁はあえて壁をデザインしなければ斜面でも良いわけであり、護岸も単純な面でなく折れ曲がりなどの変化をつけることができる。高水敷に水路を設けて親水空間にしたり、樹林を残したり、花壇を設けたり、遊歩道やサイクリングロードなどが設けられたりした。つまり、単調であった河川の空間が造園的に整備され変化に富んだ複雑な空間へと変貌した。こうした空間では樹林保全が許されたり、高水敷の水路など、治水目的性の制約は断面にゆとりがある分だけ緩和される。しかし、安全上高水敷水路や石積みの低水護岸でも空石積みは許されず、部分的にはがっちりとコンクリートで固められなければならなかったのである。
第二にコスト制約が緩和され、多様な素材とディテールが使われることである。護岸などの表面の素材は、天野光一氏が指摘するようにある種の「装飾」であると言ってよいであろう(註1)。構造的には現場打ちコンクリート、ブロック積み護岸、土に芝生でも事足りるのである。そうしないとすると、あとは浸食対応などの機能を満たしさえすればデザイナーの論理で素材と細部デザインを選択することができる。練り石積みであれば切石布積み、谷積み、野石乱積み、玉石の矢羽ね積みでも、天端の処理も笠石、天端石など様々なパターンが使用可能である。これらは価格には相違があるが、建設費を大きな問題としなければいずれでも可能であり、また全体の費用を考慮すれば部分的に価格の高低の組み合わせも可能である。
第三に技術の発達により、自由で多様なデザイン様式の組み合わせが使われることである。モダンやポストモダンといった新しいデザイン様式では、素材やパターンの組み合わせが自由である。伝統的には必然性のない材料やパターンの組み合わせもありなのである。極端には切り石積みと谷石積みを組合わせても、陶板やレリーフを護岸に張っても構わないのである。沿川に文化財があるときなど、それと調和させるために護岸の石積みの意匠を合わせることも十分可能である。鉄筋コンクリートなど鉄とコンクリートの複合構造物は汎用性と耐久性を兼ね備えており、20世紀の画期的なオールマイティの材料であると言っても過言ではない。この材料を使えば構造上の問題は解消され、自由な様式のデザインを使用可能としたが、コンクリートの打ち放しの表面が汚なくなるのが欠点であり、これを表面処理や石張りなどで補ってきたのである。
第四に住民や自治体の参加による、河川空間と沿川空間との一体化の促進である。沿川の公共施設として、道路空間、都市再開発空間、文教施設、文化施設などとが河川空間と一体的にデザインされ、境界の柵の撤廃とデザイン様式の一体化、通路の接続による移動の連続性の確保などが行われる。また河道を付け替えたとき、従来は売却していた旧河道部分を河川に取り込んだ空間として、公園や樹林帯として保全し活用することも行われている。こうした沿川と一体化により、全体景観の調和をはかることが可能となる。
これらの特徴をまとめるとコンクリートを使った技術の発達とデザインの自由度が増したことである。デザインの制約が緩和されたことは、伝統的な護岸工法から解放した点は大きな進歩であった。しかし多様な空間設計を可能にしたことは、百花繚乱のデザインが出現することになる。
写真−1 景観デザインの事例:徳島市新町川
最も典型的なデザイン問題を考えるには、一時期護岸やのり面工や砂防ダムなどに「レリーフ」を貼ったり「モザイク」の絵を描くことが流行ったことを考えてみればよい。レリーフなどは一部の人々には共感を得たが、別の人々特にデザイナーには不評であった。これをデザイン論としてどう捉えるか。批判を恐れずに述べると、これは一種の作法論の衝突であると考える。レリーフは時を経て汚くなる(維持管理すればよい)、公共空間に不適だ(なぜいけないのか)、幼稚だ(子ども向けではいけないのか)、短絡的だ(いけないのか)、のり面などの本来の形をデザインすべきだ(ネクタイやワンポイントを加えたシャツはいけないのか)などの批判(反論)を様々に解釈すれば、結局「私は嫌いだ。」「私はああいうスタイルのデザインはしない。」と言っていることになってしまうのではないか。私自身はレリーフなどのデザインは好まないが、良し悪しの絶対的な根拠も見いだし難い。お茶の流派の作法と同じようにデザイナーの作法に沿ったデザイン行為の結果としてデザインが生まれるわけである。別のデザイナーの作品や作法を好むか、好まないかという相違である。土木関係者には科学的に最適な一つの正解があるはずだとする考え方もある。しかし景観やデザインはそうではない。同様の機能を満たすデザインの中から感性が好むものを選択するものである。
4.河川生態系保全デザインの制約上の課題
昭和60年代から河川における野生生物の保全が課題となり、急速な展開をみせた。それは福留侑文氏によるスイスで行われている「近自然工法」の紹介をきっかけとする「多自然型川づくり」の推進にある(註2)。同時期に温暖化やオゾン層破壊など地球環境問題が社会の話題となり、その中の生物多様性の保全と河川の空間のあり方が結びつけられ、コンクリートで固めた河川の姿が問題視されたのである。
我が国の多自然型川づくりは、全国に多くの整備事例が見られるようになり、初期には技術的にも不十分であったが、徐々に良好な事例も見られるようになった。そしてついに「コンクリートを河川では表面には使わない。」という極論へ至るのである。河川の景観デザインでは、コンクリートを使って工夫することを考えるが、多自然型川づくりではできるだけコンクリートを使わない、また使うにしても表面になるべく出さないことを方針とするものである。これは我が国においては景観デザインの制約に加えて、さらに厳しい土地問題の制約に抵触することになるのである。
昭和60年代以降の多自然型川づくりの展開の時代においても、初期には護岸対応の魚巣ブロック、ホタルブロック、連接ブロックなどコンクリート製品の開発は続き、蛇篭や柵・枠工の水制など伝統工法の復活も見られるようになった。これらは多孔質の環境への対応として考案されたものである。そして、その後にショートカット方式の既存河川計画の法線計画の見直し、瀬淵の保存や低低水路など計画河床の見直しなど、河道構造の見直しへ至る。
多自然型川づくりがスイス・ドイツからの技術輸入から始まり、我が国の河川へ応用が試みられるにつれ、その思想的背景と技術体系が我が国にはかなり適用しにくいことが実感されてくるのである。その最大の原因は自然的社会的背景の相違である。たとえば河川のコンクリート護岸をはがして土に戻すには十分な河川の土地が必要になる。ドイツの土地利用規制は厳しく、農村部の起伏の緩やかな大地に広がる牧草地は安価に求められるのに対して、我が国では平坦地が狭く、高人口密度で、、土地利用規制がゆるく、基盤整備した田圃でも宅地転用が容易で地価が高く、また財産としての土地を売ることにも強い心理的抵抗があるので、土地の入手が困難である。
自然の保護意識に関しても、一度破壊したら容易には回復しないスイス・ドイツの自然に対し、我が国の自然は放置すれば草原から森林へと遷移が進む強い復元力を持っているため、我が国では自然から農地を守ることに強い関心がある。降水量が年間を通じて少ない温和な西岸海洋性気候の西欧に対して、雨量が多く台風にみまわれるモンスーン気候の日本では自然からの防御も大きな意味を持つ。
つまり、河川の自然の回復のために河川に土地を返して自由な流れを許容できる風土に対し、河川を狭い土地に押し込めて土地を有効利用する事を前提に自然を復元しなければならない風土という相違は、かなり大きな違いなのである。これは先に述べた景観デザインの限界性とも同様の根源的問題といえよう。
5.河川生態系保全デザインの方法論上の課題
生態系保全のためのデザインの方法は、河川の護岸用エコ・コンクリート製品が開発されてきたように、第一に「護岸主義」とでもいえる手法から始まる。既存計画の横断面構造で工夫できるのは護岸しかない。これをいかに求められる「多孔質」の環境にするかを短絡的に考えると、護岸の材料や形態を工夫して多孔質護岸とすることになる。ここでコンクリートの魚巣ブロックなどの二次製品や、スイス・ドイツと同様に伝統工法の木工沈床、枠工などの復活利用となる。
第二に「シンボル生物保全」の考え方である。典型的なものは初期のホタルの棲む川づくりであろう。ホタルの復活を目標に据え、ホタルの生態から生息できる条件を河川に備えるという手法である。餌になるカワニナの生息や放流、さなぎになる土のベッド、水辺の潅木などを備えた空間を整備する。あたかもホタルを水槽のなかで飼うかのごとき川づくりになる。これは市民への啓発の意味ではわかりやすいのであるが、コイやブラックバスの放流と同様な生態系の破壊でもある。しかしこれを敷衍すれば 河川のある区間を取り出したとき、そこに目標とする生態系のタイプあるいは食物連鎖の生態系ピラミッドを設定し、そのための河川空間の姿を整備しようとすることをシンボル生物保全と考えることもできる。この考え方からは、まずそこに生息することが望まれる、あるいは生息すべき生物の種類を決めることから始める。たとえば、生態系ピラミッドの頂点の種を代表種(指標種、目標種)とし、これらの種が生息する環境を物理的に生態的に整えればよいとする考え方がある。あるいは頂点の種でなくとも、貴重種がいればその種も生息の目標になる。この具体的な方法は、ダイナミックに変化する河川において実現するのは難しそうである。ホタルの名所と言われるところでも、大量発生するときとそうでない時を繰り返しているようだ。しかし、瀬淵を残す、河道をある間隔で曲げる、護岸を土や石で造る、中小洪水であふれるように高水敷を低くする、流れと水辺の微地形に変化を造る水制工を設ける、地下水の循環する工法などで、自然の姿に近づけることができる。
第三に「エコシステムアプローチ」がある。ピラミッドの頂点だけを目標種として生態系を復元しても、また現在わかる範囲で環境の情況から生息を望むべき複数の種の生息を目標にしても、食物連鎖関係のパターンが河川のその年の状況により繰り返されることがあるかも知れない。また部分部分に生息を期待される生態系の姿は、必ずしもこれでよしとされる姿ではないかもしれないが、生態系の概略が現在知り得るものであり、またこれがひとつの安定したあるいは繰り返されるサイクルの一つの生態系の姿であるならばよいとする。あるいは理論的にはよしとしないまでも、実用的にはこれをもってよしとせざるを得ないのかもしれない。こう考えると少々柔軟な複数の目標種を副次的に設定することも一つの考え方であろう。しかし、具体的な河川整備の方法はどうすればよいか、よりいっそう難しくなりそうである。はたしてその場にふさわしい生態系というのは決められるのだろうか。
第四に「自然的景観の形成」がある。 同じエコロジカルな発想でも、生態系の細部まで決めないほうが良い、決められないという考え方もある。最小限の物理的な地形を回復することで、そこに自然がつくる新たな地形が生じ、そこに自然に生まれる植物や動物などを一つの目標生態系であるとする。人間は物理環境の操作までで止めるのがよいということである。この前提にはつくられた河川なりの空間、洪水の規模や回数が「自然に」生じるものに近いということがある。あるいは、人為が加わった流水の状態を是認して、そこに発生する生態系でやむをえぬとする。ダムができ、用水を引き、河川の流れは「自然」とはほど遠いものになっていても、こうした発想を是認することができるとすれば、理論的に達成不可能なものに対する現実的な一つの回答であろう。この具体化の方法は、人為の加わっていない類似河川や、過去の河川の風景の記憶をモデルに物理的な環境を整えることになろう。たとえば出来るだけ河川の自然の状態へ近づけるためには、大きめの横断面を造っておき、上流からの土砂の堆積を促進させることで河道内の微地形を復元したり、護岸からの湧水を妨げない工夫をしたり、広い河川敷を設けて流れを自由にさせるなどが考えられる。
河川の生態系保全のデザインの方法は、検証に長期間・多数事例を要し、河川水辺の国勢調査など生物のモニタリングが開始されてから間がないこと、保全の対象とする生物や環境などは個々の河川により多様であるなどのため、一般的な護岸のデザインなどの方法として整理するには十分な状況ではない。
写真−2 エコロジカル・デザインの事例:横浜市いたち川
6.河川空間デザインの展望
明治以降の近代化において河川舟運が次第に衰退し、鉄道と道路がこれに変わった。そして河川は用水や発電など水資源開発と洪水防御がその役割として大きな位置を占めるようになった。そうした功利主義的な河川利用を再考し環境を回復するのが、経済安定期以降の地域景観思想や野生生物保全のエコ思想など環境思想であった。
シビックデザインの思想は、昭和63年に土木学会誌において提唱され、元来景観の思想から発して社会基盤施設の文化・環境・景観性を高めることを目的としている。これを平成3年に「地域の歴史・文化と生態系に配慮した、使いやすく美しい公共土木施設の計画・設計」として、「長期に使用して飽きない永続性」、「共有財産としての公共性」、「歴史・文化・自然生態系に調和する環境性」を3つの要件として確立した(註3)。しかし同時に発行された事例集では、96の事例のうちほとんどが景観デザインで、生態系に配慮したデザインはポロト橋ただ1つであり、研究委員会には生物の専門家は参加していない。その後のシビックデザインの実態は、引き続き景観デザイン路線に特化していく傾向が見られる。土木施設や都市施設を中心に展開されたシビックデザインの思想は、「モダニズム」や「ポストモダニズム」の思想を引き継ぐ、景観デザインの思想と位置づけて良いであろう。
エコロジカル・デザインの思想は、自然保護思想から自然環境復元へと転換した自然を回復するデザインを指向することから始まる。地球環境保全から生物種の絶滅の危機的状況をふまえた生物多様性保全が、人間を含めた生物全体、地球全体の問題として意識され、野生生物と人間が共存する方法を模索する。すなわちエコロジカルネットワーク、ビオトープネットワークとして野生生物の空間を位置づけ、河川や公園など個々の空間を多様な生物が生息できる空間を回復するという方法論へ至る。個々の空間のデザイン技術が、スイス・ドイツの近自然思想を背景とする近自然工法として、平成年代初期に紹介される。
近自然とは原生自然に対して、人為が加わってその状態を維持している「自然に近い状態」の地域すなわち景域を指し、そうした人間と自然とが折り合って共存している状態を保護することが近自然の思想である。そして景域を保護する意義は(1)理念的意義―創造への畏敬の念、先祖の偉業への敬意、動植物への思いやり、未来に対する責任、ふるさとへの愛情、知的創造の背景など、(2)美的意義―景域自身のあるべき姿、鑑賞者の喜び、(3)科学的意義―研究対象、授業の教材、(4)州政上の意義―州という単位の自然や村落の具象的イメージへの愛着、愛郷心の醸成、(5)社会的意義―リフレッシュ・レクリエーション空間など、(6)経済的意義―観光資源、(7)生命維持のための意義―大気・水・大地環境は生物の生命の前提、などの意義があるとされる(註4)。このことはスイス国民が景域を、あたかも一つの人格を持つ生命体であり、その生命を維持することは自明であると考えている。
こうした思想の影響を受けてデザイン思想がエコロジカル・デザインの思想に収束・統合化されていく。「エコ・シビル・エンジニアリング」の思想は、ユーザー優先、エコ・マインド、地球主義の土木工学の展開により、「人間生態系への創造的で、かつ恵みに対して慎み深い環境倫理観」「自然と共存する人工的な空間や施設を構成する」「環境保全に効果的で多重の循環型代謝システムを構成する」を理念とする(註5)。また「トータルデザイン」の考え方は機能的な満足は当然のこととし、景観的に優れた人間性や感性に合致し、野生生物の生息する生態系との共生、そして地球環境にも配慮ある環境デザインを標榜する(註6)。
エコロジカル・デザインの思想を実現する方法論としては何があるだろうか。河川の空間デザインの手法に着目すると、従来からの洪水処理と利水上の水理、新たに加わった人間の空間利用と快適性すなわち景観、さらに地球環境問題の生物多様性保全からの生態系保全の三つの目標の関係として捉えられる。まず人間性の復権の時代の産物として、水理と人間の間の調整に「ふるさとの川整備事業」が創設され、水理と生物との調整として「多自然型川づくり」が創られた。そして近年新たに生物と人間の間を調整する事業が「水辺の楽校」として誕生した。この三者を調整して河川空間を統合する思想と事業手法がこの中心にくる(図−1)。
「技術なき理論は無力であり、理念なき技術は危険である。両者が統一されたときはじめて真に現代に生きる思想となる。」思想と技術の一体化の必要性を説いたのは鈴木光男(註7)である。理念先行のエコロジカル・デザインの方法論の確立、および河川空間の水理・景観・生物の課題を統合する思想と事業・デザイン手法の確立が望まれる。方法論として既に紹介した問題点の克服が新たなブレイクスルーに繋がるであろう。

図−1 河川空間整備の3つの課題と事業
註)
1.天野光一:土木学会景観・デザイン委員会主催のワークショップでの発言、1997.12.18.
2.クリスチャン・ゲルディ、福留侑文:近自然河川工法、(株)西日本科学技術研究所、1990.9.1.
3.シビックデザイン導入手法研究委員会:シビックデザイン導入推進のための提言、1991.11.
4.福留侑文監修:近自然工法の思想と技術、株式会社西日本科学技術研究所、1994.9.1.
5.盛岡通:エコ・シビル・エンジニアリングの論理と倫理、土木学会誌別冊増刊、Vol. 77-9, pp.4-5, 1992.6.15.
6.北村眞一:ダムトータルデザインの手法、月刊ダム日本、No.637, pp.5-18, 1997.11.10.
7.鈴木光男:計画の倫理、東洋経済新報社、1975.7.5.